事業計画は「答え」ではなく「前提の束」
低圧モデル(連系出力50kW未満)の販売では、20年間の収支表がついた事業計画書を提示されるのが一般的です。表面利回りや回収年数といった結論の数字は目を引きますが、その数字は前提条件の置き方で大きく動きます。前提が楽観的であれば、実在しない収益が計画上にだけ現れます。本記事では、収支表を読むときに上から順に点検すべき項目――売上の前提単価、手数料の控除位置、費用の抜け、劣化と交換の織り込み、税務・撤去の扱い――を、公表されている制度情報と照らし合わせながら整理します。特定の事業者の計画を評価するものではなく、どの計画にも使える読み方の手順です。
1. 売上の前提単価: 「いつの価格」で計算しているか
売上の行で最初に確認するのは、市場価格の前提が「いつの水準」で固定されているかです。とくに需給調整市場については、前提の置き方で結論が大きく変わります。
- 需給調整市場のΔkW価格は下がり続けている。一次・二次①・複合商品のΔkW対価の上限価格は、2026年3月まで19.51円/ΔkW・30分だったものが、同年3月14日から15.00円、9月1日実需給分から10.00円へ引き下げられ、競争状況に改善がなければ7.21円への段階的引き下げ方針も示されています(経済産業省 制度検討作業部会資料)。計画の前提単価が上限価格の古い水準のまま20年間固定されている場合、その売上は制度の実勢とずれている可能性があります。「前提単価は上限価格ですか、約定実績ですか」「将来の引き下げをどう織り込んでいますか」と確認してください。
- 長期脱炭素電源オークションの収入は「二重取り」にならない。落札すれば原則20年間の固定収入が得られる一方、卸市場等の他市場収益は事後的に約9割が還付される仕組みです(OCCTO公表資料)。計画に長期脱炭素の容量収入と市場収益の両方が満額で計上されている場合は、前提の説明を求めるべきサインです。また、2025年度応札ではリチウムイオン蓄電池の落札率は36%でした。「落札した場合の計画」と「落札しない場合の計画」の両方があるかも確認点です。
- JEPXの価格差(スプレッド)は変動前提で見る。昼夜の価格差は太陽光の導入量や需給で変わります。特定の年の実績を20年間そのまま引いている計画は、変動リスクを織り込んでいない可能性があります。
売上の前提は、合計金額ではなく「市場ごとに、どの単価で、どれだけの量(稼働)を見込んでいるか」の分解で確認するのが基本です。分解を示せない計画は、検証のしようがありません。
2. 手数料の控除位置: 売上は「手取り」か
低圧モデルは最低入札量1MWの壁があるため、アグリゲーター(特定卸供給事業者)に運用を委ねることが前提になります。その手数料が収支表のどこに現れているかを確認してください。
- 売上はアグリゲーター手数料を差し引く前の金額か、差し引いた後の金額か
- 手数料の方式(収益比例か、固定額か、その併用か)と料率・金額の根拠
- 手数料のほかに、市場参加に伴う固定費(計測・通信・需給管理など)が別建てで発生しないか
- 最低保証がある場合、その条件(期間・上限・対象市場)
アグリゲーター手数料の相場は公表されていないため、「この料率が高い・安い」を外部の数字で判定することはできません。判定できるのは構造です。「売上の総額だけが大きく、手数料の行がない」「手数料率の記載がなく概算とだけ書かれている」計画は、実質の手取りが読み取れません。詳しくはアグリゲーターの選び方もあわせて確認してください。
3. 費用側の抜け: 書かれていない行を探す
収支表の費用は、書かれている行より「書かれていない行」が問題になります。低圧モデルで抜けやすいのは次の項目です。
| 項目 | 点検の観点 |
|---|---|
| 工事費負担金 | 接続検討の回答に基づく確定額か、見込み額か。見込みの場合は増額時の扱い(誰が負担するか)が契約でどうなっているか。負担金は地点ごとに決まり、回答を受けるまで確定しません(系統接続の流れ詳解参照)。 |
| O&M(保守・点検) | 電気事業法上の保安点検やメーカー保守の費用が年額で入っているか。契約期間の途中で値上げされる条件になっていないか。 |
| 保険 | 火災・自然災害等の保険料が計上されているか。補償範囲と免責はどうか。 |
| 固定資産税・償却資産税 | 設備は償却資産として課税対象になります。評価額ベースの税額が年々の費用に入っているか。 |
| 土地賃料 | 借地の場合、賃料と改定条件が全期間分入っているか。詳しくは土地・立地の条件を参照。 |
| 電気料金・通信費 | 充電とは別に、設備の待受電力や監視通信にかかる費用、受電の基本料金が入っているか。 |
| 登記・税務・管理の実費 | 法人維持費や申告費用など、小さくても毎年出ていく費用がゼロになっていないか。 |
これらが抜けている計画は、費用が過小に、利回りが過大に表示されます。「含まれていない費用はありますか」と聞くこと自体が有効な点検です。
4. 劣化と交換: 20年間「同じ売上」が続く前提になっていないか
蓄電池は使うほど、また時間の経過でも容量が低下します。収支表の売上が初年度のまま20年間横ばいで並んでいる場合、劣化による売上減少が織り込まれていない可能性があります。
- 劣化の想定値があるか。国の検討資料では、需要家側蓄電システムの収益性検討にあたって「20年間で容量が80%まで低下する(年率換算で約1%)」という想定が置かれた例があります(経済産業省の検討資料)。計画がこれより緩い劣化前提を置くなら、その根拠(使用セルの仕様・運用条件)を確認してください。
- 容量を回復する手当てがあるか。劣化分を電池の増設(オーグメンテーション)で補う設計か、期間中の交換を前提にしているか。その費用と実施時期が収支表に入っているかが論点です。
- PCS(パワーコンディショナ)の交換が入っているか。電池本体だけでなく、PCSや空調などの周辺機器にも寿命があります。20年の運用期間中に交換が想定される機器とその費用が計上されているかを確認してください。
劣化と保証の関係は寿命・劣化と保証の見方で詳しく扱います。
5. 税務と出口: 償却の前提と、最後の費用
- 減価償却の年数に注意。国税庁の耐用年数表にある「蓄電池電源設備 6年」は、停電時の照明用などに使う非常用設備を指す区分で(国税庁の取扱通達)、系統用蓄電池を名指しした細目は省令にありません。系統用設備の償却年数は設備の用途・構成による判定になるため、「6年で償却できる前提」の計画があれば、その根拠を税理士に確認してください。
- 撤去費と原状回復が入っているか。事業終了時には、設備の撤去と、借地であれば土地の原状回復が必要です。20年後の費用として計上されているか、ゼロ前提になっていないかを確認してください。
- 残存価値の扱い。終了時点の残存価値を収益側に大きく計上している計画は、その根拠(中古市場の実在性)を確認すべきです。
点検チェックリスト
- 市場ごとに、前提単価・見込量・根拠が分解して示されているか
- 需給調整市場の単価前提が、上限価格の引き下げ(19.51円→15円→10円、7.21円の方針)を踏まえているか
- 長期脱炭素で落札する計画と、落札しない計画の両方があるか。他市場収益の約9割還付が反映されているか
- アグリゲーター手数料の方式と額が明示され、売上が手数料控除後の手取りで示されているか
- 工事費負担金は接続検討の回答に基づく額か。見込みなら増額時の負担者が契約で決まっているか
- O&M、保険、固定資産税、土地賃料、電気料金・通信費が年々の費用に入っているか
- 劣化による売上の逓減、電池の増設・交換、PCS交換の費用が織り込まれているか
- 減価償却の年数の根拠が示されているか。撤去費・原状回復費が計上されているか
- 前提が外れた場合(単価下落・落札なし・負担金増額)の収支も試算されているか
まとめ
事業計画の読み方のコツは、結論の利回りではなく、前提の行を1つずつ検証することです。売上の前提単価(とくに需給調整市場の上限価格の引き下げ)、手数料控除後の手取り表示、費用の抜け、劣化と交換の織り込み、償却と撤去の扱い。この5点を分解して確認すれば、計画の「硬さ」はかなり見えてきます。前提の説明を求めて曖昧な回答しか得られない場合、そのこと自体が重要な情報です。数字の前提を文書で残し、契約前に専門家の確認を取ることをおすすめします。
出典
- 経済産業省 第108回制度検討作業部会・第二十三次中間とりまとめ(需給調整市場ΔkW上限価格の引き下げ)
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)長期脱炭素電源オークション 約定結果・制度公表資料(他市場収益の還付の仕組み)
- 経済産業省「需要家側蓄電システムの導入見通し・収益性に関する検討」(容量劣化の想定)
- 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」および「耐用年数の適用等に関する取扱通達」(蓄電池電源設備の定義)
“収支表は、作った人の希望も混ざった数字です。自分の前提に置き換えて計算し直すと、見え方が変わります。